● 山部宿禰赤人・やまべのすくねあかひと
山部赤人は、聖武天皇の時代の人で、生年も没年も不明です。下級官吏として一生を過ごしたようですが、万葉随一のナチュラリストで、自然の景観を鋭い感性で格調高く歌い上げました。この富士山を詠んだ歌はその中でも代表的なものです。もともとは宮廷歌人として天皇の行幸に従い天皇を讃える歌を詠みましたが、いつしか自然の景観へ関心を移し美しい叙景の和歌を作りました。
「宿禰・すくね」は「姓・かばね」の一つで、真人、朝臣に次ぐ三番目の姓
● 不盡山・ふじさん
富士山の古名、「盡」は「尽」の古字
● 天地・あめつち
天と地、天上界と地上界
● 分れし時ゆ・わかれしときゆ
分かれた時より、「天地の分かれし時」=「天と地が分かれ、この世界が開け始まった太古の昔」「ゆ」=「〜より、〜から」
● 神さびて・かむさびて
神々しくて、 「さびて」=そのものにふさわしいありさまを表わす言葉
● 駿河なる・するがなる
駿河の国にある、「なる」=「ある、存在する」
● 不尽・ふじ
富士の古名、「不二」とも書く
● 高嶺・たかね
高い嶺、 嶺=峰、「不尽の高嶺」=「富士山の頂き」
● 天の原・あまのはら
大空、天空、ここでは「大空に向かって、天高く」の意味
● 振り放け見れば・ふりさけみれば
振り仰いで見れば
● 渡る日・わたるひ
東から西へ空を渡る太陽
● 影も隠らひ・かげもかくらひ
「日の影」=太陽の光、「渡る日の影も隠らひ」=太陽の光も富士の影に隠れて
● 光も見えず・ひかりもみえず
富士にさえぎられて見えず。
● い行きはばかり・いいきはばかり
行くことを遠慮して、富士に行く手をさえぎられて
● 時じくそ・ときじくそ
時節かまわず、四季を通して
● 語り継ぎ 言い継ぎ行かむ・かたりつぎいいつぎいかむ
子々孫々語り継ぎ言い伝えていこう