十七、八より 一頁

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世阿弥は、十七、八歳頃に役者にとっての最初の試練(逆境)が訪れると言います。これまでの姿の愛らしさが背が伸びることで失われ、高く響いていた声も声変わりで出なくなる。これまでの演じ方が通用しなくなるのです。もちろんこれは自らが経験したことだから言えることなのでしょうが、それまでが順調だっただけに、ここで受ける精神的ショックは大きいのです。
世阿弥はこの試練(逆境)を真正面から受け止め、正攻法で乗り切れと言っています。決して手を抜いたりせず、稽古に全力で取り組めというのです。「一期の境ここなりと、生涯にかけて能を捨てぬより外は、稽古あるべからず」これは、能役者が試練(逆境)に立ち向かう時の覚悟を語っています。それも原文で読んでこそ伝わってくる覚悟であり、現代語では伝えられない世阿弥ならではの名文です。「あの逆境こそが自分を強くしてくれた」二十年前を振り返り、世阿弥はそのように述懐しています。
