第一問答 一頁

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問う。能の公演を始めるにあたり、まず見物席の(観客の)様子を見て、その日の公演の出来、不出来(成否)をあらかじめ知る(予測する)とは、いったいどういうことでしょうか。
答える。この事(問い)は、大変難しい(問いだ)。吉凶判断(陰陽道)に通じた人でなければわからないだろう。
まず、その日の公演の会場(観客の様子)を観察すると、今日は公演の出来がよいか悪いかの前兆がある。ただ、これを言葉で説明するのは難しい。
問いにある「吉凶をかねて知る事(公演が上手くいくかいかないかを予測すること)」それに対する答えにある「その道に得たらん人ならでは心得べからず(陰陽道に精通した人でなければわからないだろう)」この二つの文章だけ読むと、私たち現代人は「吉凶をかねて知る事」を非科学的な占いとイメージしてしまいます。しかし、問いの次の文章「その日の庭を見るに、今日は能よく出で来べき、悪しく出で来べき、瑞相あるべし。これ、申しがたし。(開演前の観客の様子をよく観察すると、今日の公演が上手くいくかいかないかのきざし(予兆・前兆)がある。しかし、これは言葉では説明できない。)」つまり、開演前の観客の様子をよく観察してみると、今日は能の出来がよいか、悪いか、言葉では説明できない何かを読みとる(感じ取る)ことができる。こう世阿弥は述べているのです。それは占いなどではなく、直感で読み取る(感じ取る)何かです。この時代には、その時、その場所で感じる人間の直感を、人智を超えた神の啓示ととらえていたのだと思います。
