「読書遍歴」・三木清「読書と人生」より
三木清についてご存知ない方は、以下の文章を読む前に Wikipedia の「三木清」 で、その人物を知っておいてください。三木清の著作では「読書と人生」・「哲学ノート」・「人生論ノート」の三つが文庫本で出版されていますが、「哲学ノート」・「人生論ノート」の二冊は文章がやや難解です。それに対して今回引用した「読書と人生」には文章の難解さはなく、エッセイ的な内容であるにもかかわらず、戦前の若者たちを惹きつけたアカデミックな雰囲気が滲み出ています。三木清の「読書と人生」は、何をどう読むかについて語った読書論の名著として今でも多くの読者を惹きつけています。「読書と人生」は、1942年・昭和十七年、三木清が四十五歳の時(戦時中)に出版されました。
読書の基本の型を身につける


この文章は、旧制中学三年(1912年・大正元年・十五歳)の頃、初めて本格的な読書を始めた頃の思い出を記したものです。三木清が中学三年の年に明治が終わり大正が始まりました。当時はテレビどころかラジオもまだない時代です。出版されている本も限られていました。しかし逆にそれが的を絞った読書に集中する環境を作り出しました。徳富蘆花の作品に的を絞った読書を一年間繰り返したことで読書の基礎が出来上がったことを三木は痛感しています。
「読書と人生」という書名が、徳富蘆花の「自然と人生」から取られたものであることは明白です。
芸道であれスポーツであれ、上達するには最初に基本の型をしっかりと身につけることが極めて重要です。これは読書も同じです。そして、何事であれ基本の型はそれを繰り返すことで身についていきます。読書の場合、手当たり次第に色々な本を読むのではなく、同じ本を何度も繰り返し読むことで基本の型(読書の基礎)が形作られます。読書が芸道・スポーツと違うところは、芸道とスポーツにおいて基本の型を身につけるには、年齢的な若さ(体力)が求められます。しかし、読書は年齢に関係なく何歳からでも基本の型(読書の基礎)を身につけることができるのです。
徳富蘆花著「自然と人生」にある「自然に対する五分時」の中から、「此頃の富士の曙」の冒頭の文章を下にご紹介しています。三木清が実践したごとくに、ぜひ何度も繰り返し読んでみてください。
