直面 一頁

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まず、直面の能は、おおよそ、演じる役ごとにまねることは、当然である。顔つきまで似せられるはずもないのに、いつもの顔に変えて、顔の表情を作ろうとすることがある。まったく見られたものでない。演技における振舞や所作などは、その役柄らしく似せるべきだ。顔の表情は、できるだけ自分らしく、取りつくろうことなく自然にしているべきだ。
「直面」は、「女」「老人」といったまねる対象を意味する言葉ではありません。「直面」とは面を付けずに演じることです。歌舞伎のように派手な化粧をすることもなく、素顔のままで演じます。では、直面において顔をどのように保つかといえば、顔の表情をいっさい変えません。目を動かすことさえしないのです。つまり、自分の顔を面の代わりとして演じ舞うのが直面の能です。能は、普通の演劇と違って、姿にも、形にも、動きにも、ナマな人間性を否定し払拭して、演者はいわば「造形されたもの」として登場します。表情を切り捨てるのは、シテに限ったことではなく、ツレ、ワキ、直面の演者すべてです。それだけでなく、後見、地謡、囃子方にいたるまで同様です。以上は1966年に発行された保育社カラーブックス「能・鑑賞のために」から引用しました。
「つくろはで直に持つべし(取りつくろうことなく自然にせよ)」という世阿弥の時代の直面が、「自分の顔を面の代わりとして演じ舞う」という現代の直面に発展していったのです。

直面 観世流24世宗家・観世左近の『安宅』 Wikipedia

能舞台で演じる人々(橋掛かりを進むシテ以外はすべて直面です)
