君が行く道の長手を〈巻十五・三七二四〉 中臣朝臣宅守と狭野茅上娘子の贈答歌

「私のために罪を受けようとするあなた。あなたが行く越前までの長い長い道をたぐり寄せ折り畳み焼き尽くしてしまう天の火が欲しいのです」二人がどういういきさつで恋に落ち夫婦となったかはわかりませんが、この歌から伝わってくるのは、狭野茅上娘子の「私のせいでこんなことに」という強い自責の念です。

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<語句解説>

歌を深く味わってみます。

中臣宅守(なかとみ の やかもり)は奈良時代の貴族で、中臣東人(母が藤原鎌足の娘)の息子です。ですから中臣宅守は藤原鎌足のひ孫にあたります。狭野茅上娘子(さののちがみの おとめ)は斎宮(伊勢神社に奉仕する皇族の女性)の女官でした。斎宮の女官は結婚が禁止されているにも関わらず二人は夫婦となり、それが罪に問われて中臣宅守は越前へ流刑になりました。万葉集には二人の贈答歌が六十三首あります。その中から三首を取り上げました。(次ページと次々ページに一首づつ取り上げています。)

「私のために罪を受けようとするあなた。あなたが行く越前までの長い長い道をたぐり寄せ折り畳み焼き尽くしてしまう天の火が欲しいのです」

二人がどういういきさつで恋に落ち夫婦となったかはわかりませんが、この歌から伝わってくるのは、狭野茅上娘子の「私のせいでこんなことに」という強い自責の念です。今ここで二人の結婚のいきさつについて想像を働かせてみましょう。

中臣宅守を愛してしまった狭野茅上娘子は、自分が結婚を禁止されている斎宮の女官であることを隠して彼と夫婦になります。しかし狭野茅上娘子が斎宮の女官であったことが朝廷に知られ、二人は罪に問われます。中臣宅守は、この時初めて妻が斎宮の女官であったことを知りました。しかし中臣宅守は、罪は自分一人にあり妻に罪はないと主張します。そして自分一人で罪をかぶり越前へ流刑となったのです。

このようなストーリーがこの歌の背景としてあるならば、この歌に込められた狭野茅上娘子の思いは壮絶です。「何としても彼を救わねば」もはや手立てはないとわかっていても、神仏にすがりついてでも中臣宅守を救いたいという狭野茅上娘子の壮絶な思いが言霊となってこの歌に宿っています。