唐衣裾に取りつき泣く子らを〈巻二十・ 四四〇一〉防人歌

防人歌の多くは、出立にあたっての妻子、両親との別れの悲しみ、遥かな故郷を思う望郷の念を詠っています。一方、国を守る崇高な決意や忠誠心を詠った歌はわずかです。別れの悲しみや望郷の念を詠った多くの防人歌を読んだ家持は、東国の人々にとって防人がいかに過酷な使役であるかを思い知らされます。

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<語句解説>

歌を深く味わってみます。

信濃の国(長野県)の防人の歌です。

「防人として九州へ赴く日、子供達がまだ寝ているうちに出立するつもりだったが、子供達の寝顔をながめているうちにいつしか夜が明け、一番鶏の声に子供達が目を覚ましてしまった。唐風に仕立てた旅の衣を着た私の姿に、子供達は何かを感じ取り、裾に取りついて行くなと泣く。せめてこの子達の母が生きていてくれたらと思うのだが、それは思っても仕方がないこと。言い聞かせてわかる歳でもなく、子供たちの手を振り払い駆け出すしかなかった。振り払った小さな手のぬくもりが今も忘れられない」

万葉集巻二十には防人達の歌が多く収められています。天平勝宝七年(755年)に国防を司る官職である兵部少輔の位にあった大伴家持は、東国の国府に対して防人歌を提出することを命じ、提出された歌の中から八十四首を選び万葉集巻二十に収めました。

防人歌の多くは、出立にあたっての妻子、両親との別れの悲しみ、遥かな故郷を思う望郷の念を詠っています。一方、国を守る崇高な決意や忠誠心を詠った歌はわずかです。別れの悲しみや望郷の念を詠った多くの防人歌を読んだ家持は、東国の人々にとって防人がいかに過酷な使役であるかを思い知らされます。家持が東国から防人歌を集めた翌々年(757年)東国からの防人の徴用が廃止され、以後防人は地元九州から徴用されることになりました。これは家持が朝廷に働きかけた結果だったのかもしれません。