あしひきの山河の瀬の鳴るなへに〈巻七・一〇八八〉柿本人麻呂
この歌には自然の霊力が詠み込まれています。古来より日本人は自然と共生して生きてきました。山、森、河には神が宿り、雷、雨、風も神の仕業とみなしてきたのです。森羅万象、自然のあらゆるもの、あらゆる現象に神が宿っており、山間を流れる川の音に神の声を聞き、山上に湧き上がる雲に神の姿を見ました。
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歌を深く味わってみます。
柿本人麿の歌です。
万葉集に九十四首の歌が収められた柿本人麿は万葉を代表する歌人ですが、その生涯は不明なことが多く謎に満ちた人物です。舒明天皇の国見の歌(最初の歌)の鑑賞で紹介したように、言霊信仰さえ歌にしてしまう柿本人麿は、強い霊的な力を持った人だったようです。
山間を流れ落ちる急流のごうごうという川音と山上にむくむくと湧き上がっていく雨雲の情景を一つの歌の中に混ぜ込み、自然の織りなす音と情景が互いに刺激し合う不思議な感覚の歌です。
この歌には自然の霊力が詠み込まれています。「山間をごうごうと響き渡る急流の音は山の神の怒る声、弓月が岳の山上にむくむくと立ち上る雲は雷神の怒る姿。山の神の怒る声に応えて雷神が立ち上がる。空一面があつい雲に覆われ、雷鳴がとどろき、雨と風は地面をたたきつける。急流の水かさはいよいよ増し、流れはいつしか龍神と化す」
古来より日本人は自然と共生して生きてきました。山、森、河には神が宿り、雷、雨、風も神の仕業とみなしてきたのです。森羅万象、自然のあらゆるもの、あらゆる現象に神が宿っており、山間を流れる川の音に神の声を聞き、山上に湧き上がる雲に神の姿を見ました。
この歌は、歌そのものが一つの言霊です。歌に込められた霊力に、神としての大いなる自然の力を感じずにはいられません。