うつせみと思ひし時に〈巻二・二一〇〉柿本人麻呂

前の長歌の詞書に「柿本朝臣人麿の妻死りし後に泣血ち哀慟みて作れる歌二首」とありますが、この歌の妻は巻207の軽の地の妻とは別人であるとされています。軽の地の妻が世間には知られたくない隠し妻であったのに対して、この長歌で歌われた妻は生活を共にする正妻、又はそれに近い立場の妻だったようです。

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<語句解説>

歌を深く味わってみます。

前の長歌の詞書に「柿本朝臣人麿の妻死りし後に泣血ち哀慟みて作れる歌二首」とありますが、この歌の妻は巻207の軽の地の妻とは別人であるとされています。軽の地の妻が世間には知られたくない隠し妻であったのに対して、この長歌で歌われた妻は生活を共にする正妻、又はそれに近い立場の妻だったようです。

この長歌からは、軽の地の妻が亡くなった時のような、深い悲しみとその悲しみがより一層妻への愛情を深めていく様子はうかがえません。生活を共にしていた妻であるだけに、その突然の死は、悲しみ以上に落胆と不安を人麿にもたらしたようです。乳飲児を抱えて途方に暮れる様子は、この歌を読む者をも不安な気持ちにさせます

人麿にとってこの妻は、愛する人である以上に大切なパートナーでした。これから二人でともに子を育て、家を守っていくはずの人生の大切な伴侶だったに違いありません。