鶏が鳴くあづまの国に〈卷九・一八○七〉高橋虫麻呂 勝鹿の真間に井見れば〈卷九・一八○八〉高橋虫麻呂の反歌
この時代の貧しい女性にとって容姿の美しさは必ずしも人生を幸福に導いてくれるものではありませんでした。美しさゆえに意に沿わぬ関係を迫られた貧しい女性たちも多かったはずです。手児奈の伝説は、もともとそんな不幸な女性の伝説として語り継がれてきたのではないでしょうか。高橋虫麻呂もそんな悲しい女性の一人として手児奈を歌に詠んでいるように感じます。
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歌を深く味わってみます。
作者高橋虫麻呂については、水江の浦島の子のよめる歌 <巻九・一七四○> に詳しく記載しています。
勝鹿(葛飾)の真間の手児奈の伝説は、古くから広く言い伝えられていたもののようで、山部赤人もこの伝説を元にして長歌と反歌二首を詠んでいます。
貧しい家に生まれたけれども、その美しい容姿と可愛らしい笑顔で世の男性たちを惹きつけた手児奈は、自分をめぐって男たちが争うことに心をいため、自ら海に身を投げて亡くなったという伝説です。それは美しくも悲しい伝説として伝えられてきました。しかし現代人の感覚からすれば、そんなことで死んだのかと思える不思議な伝説です。伝説の少女手児奈、その短く悲しい一生は、貧しさと女性としての魅力の裏返しであったのかもしれません。
この時代は一夫多妻で男性が女性の元に通う通い婚でした。女性としての魅力と可愛らしさに溢れた手児奈のもとには、多くの男性が半ば強引に通ってきたのではないでしょうか。意に沿わぬ関係を迫られた手児奈が自ら命を絶ったと考えれば納得できなくもありません。
この時代の貧しい女性にとって容姿の美しさは必ずしも人生を幸福に導いてくれるものではありませんでした。美しさゆえに意に沿わぬ関係を迫られた貧しい女性たちも多かったはずです。手児奈の伝説は、もともとそんな不幸な女性の伝説として語り継がれてきたのではないでしょうか。高橋虫麻呂もそんな悲しい女性の一人として手児奈を歌に詠んでいるように感じます。
人は何かに思い詰めた時、ただ体を動かすだけの単調な労働にひたすら打ち込むことがあります。その足場が踏み固められ平らになるほど何度も井戸から水をくみあげている手児奈の姿を思い浮かべる時、言葉にできない深い悲しみが伝わってきます。