熟田津に船乗りせむと〈巻一・十五〉額田王
この歌は、斉明天皇が新羅征伐へ向かう海路で立ち寄った伊予の国熟田津(今の愛媛県松山市)で詠まれました。「闇夜が月明かりに照らされ始め潮も良い具合に満ちて来た。絶好の船出の時ではないか、さあ今こそ船を漕ぎ出そう」力強さに溢れた出立の歌です。
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歌を深く味わってみます。
額田王の歌とされていますが、斉明天皇が詠んだ(作った)歌であるという説もあります。
額田王は、はじめ大海人皇子(後の天武天皇)の妻となり一女をもうけますが、後に天智天皇に乞われてその妻になります。天智天皇が弟の妻を強引に奪ったわけですが、そこには額田王の女性としての魅力だけではなく、天智天皇が彼女を必要とする特別の理由があったものと想像されます。
額田王は、呪術や占いをよくし、言挙げ・ことあげ(声に出して歌を詠み上げることで言葉の霊力である言霊を働かせること)に秀でた巫女でした。天智天皇は、彼女のその霊的な力を必要としたのです。
この歌は、斉明天皇が新羅征伐へ向かう海路で立ち寄った伊予の国熟田津(今の愛媛県松山市)で詠まれました。「闇夜が月明かりに照らされ始め潮も良い具合に満ちて来た。絶好の船出の時ではないか、さあ今こそ船を漕ぎ出そう」力強さに溢れた出立の歌です。夜の航海は危険をともない、船乗りする人々を皆不安に駆り立てます。ですから夜の航海の不安を言霊で打ち消す為に詠まれたのがこの歌です。この歌から発せられる力強さには、船乗りする人々の不安を打ち消そうとする強い意志が感じられます。
歌を詠んだのは(作ったのは)斉明天皇であるという説がありますが、出立にのぞみ言挙げしたのはもちろん額田王です。呪術に秀でた額田王が言挙げすることで歌に込められた言葉の霊力(言霊)が発揮されると信じられたからです。
額田王は、霊的な能力を持った巫女として、この時代の政治や外交に大きな影響を及ぼす存在だったのかもしれません。額田王を万葉の女流歌人とだけ解釈するには、彼女の人生とその生きた時代は波乱に満ちすぎています。